突出した才能 アルチュール・アラリ

吉武美知子

 

オープニングから異彩を放つ映画だ。なんかそんじょそこらの映画とは違う雰囲気を漂わせている。人工美ともいえるカラートーン、催眠作用をうながすような音楽、そういったヴィジュアル効果サウンド効果にすぐさま捕らえられて、我々観客はこの映画の迷宮に惹き込まれてゆくことになる。

 

本作の演技で、17年の仏映画アカデミー・セザール新人男優賞を獲得したニールス・シュネデール演じる主人公、ピエール・ウルマンのアンチヒーロー振りも徹底している。汗くさそうな外見、油っぽい毛髪、ぼそぼそとした物言い、感情や意志を表に見せない不透明感、不幸感を身にまとったまったくもってイケてない青年だ。それもその筈、幾層にも重なり合う本作の主題を彼は独りで背負い込んでいる。はたまた背負い込むことになる。

 

ジャンルとしてはフィルム・ノワールもしくは推理映画とカテゴリー付けされる本作は、そもそもは強盗団の物語だ。ピエールは、パリのささやかな強盗組織で斥候の役をしている。仲間は参謀役のラシッドと金庫破りが専門のケビン。ラシッドはピエールにとって父親のような存在でもある。

 

一方で、ピエールの家系の複雑な事情が表出してくる。ピエールの父、ヴィクトルはベルギー・アントワープのダイヤモンド商家の生まれだが、ダイヤモンドの研磨作業に熱中し片手を切断してしまったあと不遇な人生を強いられた。15歳の時から生き別れ状態だったその父が野垂れ死にしたことを知らされたピエールは、生家から追放された父の過去と惨めな最期に復讐を誓う。事故当時現場にいた父の兄、ジョゼフが父を見捨て不幸な人生に追いやったのだ。

 

映画の舞台はパリからアントワープに移る。父の葬儀に現れた軽いノリの従兄ガブリエルの誘いに応じてピエールはアントワープに向かう。目的は二つ、伯父ジョゼフへの復讐とダイヤモンド強盗だ。しかし生まれて初めてダイヤモンドに触れたピエールは、自分の体内を流れる父から受け継いだ血が騒ぎ出すのを感じる。単なる復讐劇、強盗談で終わる筈がない物語は「血縁の怨恨と絆」「友情と裏切り」「信念と誤解」といった相反するテーマが絡み合ってピエールという主人公の悲劇を描ききる。

 

『汚れたダイヤモンド』はきちんとした映画である。観終わって、こうした映画らしい映画に久しく会ってなかったことに気付く。すっかりこの映画に興奮した私は、着眼点、構成・演出力、映画術ともに突出した監督アルチュール・アラリの才能に賭けることにした。今後の跳躍が楽しみでたまらない。ちなみに本作の撮影監督、トム・アラリはアルチュールの兄。トムはギヨーム・ブラックやカテル・キレヴェレ作品の撮影も担当している。こうしたフランス映画のニュー・ジェネレーションの台頭をも祝福したい気分でもある。

(よしたけ・みちこ)

東京生まれパリ在住。80年代から映画の様々な分野で仕事。キネマ旬報や女性誌等に寄稿。
いち早くレオス・カラックス、シリル・コラール、ニコラ・フィリベール、フランソワ・オゾンを発掘し配給会社ユーロスペースの買い付けをサポート。ジャン・ユスタッシュ、ストローブ=ユイレ、ジャック・ロジエ等、作家の映画を日本へ紹介。ジャン=ピエール・リモザン『 Tokyo Eyes』レオス・カラックス『Pola X』フランソワ・オゾン『クリミナル・ラヴァーズ』『焼け石に水』『まぼろし』の日仏合作コーディネート。
1993年にフランスの映画製作会社 Comme des Cinémas の設立に参加。1998年に諏訪敦彦監督と出会い、以降同監督の『Hstory』『不完全なふたり』『パリ、ジュテーム』『ユキとニナ』に参与。 Comme des Cinémas で長編オムニバス:ミシェル・ゴンドリー&レオス・カラックス&ポン・ジュノ監督『TOKYO!(2008)の企画開発・製作に4年、諏訪敦彦監督『ユキとニナ』(2009) の企画開発・製作に5年をかけた後、2009年に映画製作会社FILM-IN-EVOLUTION を設立。同社の主な製作作品は、カトリーヌ・カドゥー監督・ドキュメンタリー『黒澤 その道』 (2011)、山本亜希監督・中編フィクション『ネクタイと壁』 (2014)、黒沢清監督『ダゲレオタイプの女』(2016)、最新作は諏訪敦彦監督『ライオンは今夜死ぬ』( 2017) で主演はジャン=ピエール・レオー。